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バットマン:イヤーワン

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ヴィレッジブックスから刊行されている『バットマン:イヤーワン/イヤーツー』から、今回はバットマンのオリジン/誕生譚の名作「イヤーワン」(1987年作)の紹介。ライターはこれまた大名作である『バットマンダークナイト・リターンズ』のフランク・ミラー

 

ストーリー

バットマンとして自警団/ヴィジランテ活動を始めたブルース・ウェインと、持ち前の正義感から疎まれ、過ち(=同僚の汚職を告発)を犯したことからゴッサム・シティへ左遷されてしまったジェームズ・ゴードン。ブルースの生い立ちとバットマン誕生の経緯から、この二人の出会い、同じ志を持つ両者が協力者として理解を深めていく過程がとても丁寧に描かれている。

 

18年前、家族で「奇傑ゾロ」を観た帰りに強盗に襲われ両親を殺された幼きブルース。そんな彼が"外遊"から12年ぶりに故郷であるゴッサム・シティへ戻ってきた。しかし、この外遊というのは外向けの理由で、実際にはゴッサムから犯罪を撲滅すべく修行していた。やがて服装や特殊メイクで変装してヴィジランテ活動を開始しますが、犯罪者たちは怯むことなくやりたい放題。満身創痍で屋敷に戻り、苦悩するブルースの目の前に飛び込んできたのは蝙蝠だった。ここからブルースがバットマンになる決意をするまでのシーンは本当に素晴らしい!

 

一方でゴードンは、ただでさえ正義感の強い男だから犯罪で溢れかえるゴッサムでは尚更てんやわんや。彼を悩ますものは街だけではなく、警察内部も汚職だらけで腐敗している。さらには、すっかり疲れきっている中で同僚の女性刑事と不倫関係に発展してしまう始末。家に帰れば身重な奥さんがいるというのに!その後、汚職警官につけこまれた結果、生まれたばかりの子供をマフィアに誘拐されてしまう。ゴードンは我が子を救い出すことが出来るのか。

 

感想

前述の通り、ブルースがバットマンになることを決意するシーンは素晴らしいし、それだけで名作になりうるのだけれど、この作品の見所はブルースよりゴードンでしょう。不倫相手との逢引の後、帰宅した彼が身重な奥さんの寝ているベッドに腰掛け拳銃を手に自問自答するシーンは、彼の罪悪感や虚無感など様々な想いが読者であるこちらまで染みこんでくるような気がしてくるくらいの名シーン。割りとクリーンで真面目なイメージのゴードンだが、本作の泥臭く人間味溢れる姿にはグッとくる。

 

シリアスな雰囲気と細やかな心理描写、フランク・ミラーお得意のハードボイルドなストーリーに魅了されること間違いなし。デビッド・マッズケリのアートもこれまた素晴らしく、暗めで淡い色使いとトーンがドラマの雰囲気や魅力を引き出すのに一役買っている。本作にはド派手なヴィランが出てくるわけでもなく(超短髪でなんとも言えないデザインのセリーナは出てくる)、アメコミに何を期待しているかによって大きくズレてしまうと思うけど、アメコミ/バットマン初心者にオススメしたい作品。ただ、初めての一冊には少し暗すぎるかもしれない。今ならNEW52の『バットマン:ゼロイヤー』があるし、スナイダー&カプロの素晴らしい作品なのだけれど、バッツ・オリジンなら、まずは本作を手にとって読んで欲しい。 

バットマン イヤーワン/イヤーツー

バットマン イヤーワン/イヤーツー